|はじめに|

 太陽の話をするときには,まずこの写真を見ていただくことにしている.京都大学理学研究科附属飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡(DST)と空にかかる虹である.理由はDST が世界屈指の太陽望遠鏡であり,虹が太陽の謎を解き明かすためのひとつの手法に通じる現象だからである.太陽の観測には虹を用いることが多い,といっても雨上がりに見られる虹ではない.天然の虹は太陽に背を向けると見えるが,太陽研究者は望遠鏡を太陽に向けて虹をつくって調べる.DST は世界一美しい虹をつくる装置といっても言い過ぎではないだろう.その人工の虹には太陽のさまざまな情報が含まれている.
 太陽は最も近くにあって,表面の様子を詳しく観測することができる恒星であるとよく言われる.おかげで,太陽で起こる多種多様な現象はとても覚えきれないほどだが,見るだけでもわくわくする.また詳しく見えるということは,理論やシミュレーションとの突き合わせができるということで,これらがうまくつながって太陽の研究は進んできた.その結果,太陽現象の大部分は「磁場」と「プラズマ」というキーワードによって統一的に理解されている.
 本書では主に観測的な側面から太陽を紹介する.高校生以上なら理解できると期待したい.スパイスのつもりで数式が少し入っているが読み飛ばしてもかまわないし,読む順序もあまり気にせず口にあいそうなところをつまみ食いしてもよい.それぞれ好みに応じて太陽へのたびを楽しんでいただきたい.

                    筆者

 
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